先生からのメッセージ

先生方からのメッセージをお届けします
国語科

森川 亮

1998年~在職

2020年春

 体育館の入り口の門のところに小さな男の子とお母さんがグラウンドの方を見ておりました。100年桜を見ているのです。「中に入ってごらんになりますか?」と聞くと「ありがとうございます!」と言ってプール横の坂を下りていきました。数分の短い時間でしたが、あの見事な桜を見て満足して帰られました。あの100年桜がこんなにもめでられることのない春は初めてではないでしょうか。

この春に卒業したみなさん、またこの春から就職するみなさん。多くの夢や希望を胸に新しい場所で輝きを放っていると思います。新型コロナウィルスの影響で大きく予定変更を余儀なくされた方も多いと思います。私は最近思うのです。生きているということは当たり前のことではないと。医療や保育に携わる卒業生だけでなく人と関わることを仕事とされている卒業生が多い中、その健康を祈らずにはいられません。

企業に就職が決まっていた大学四年の10月。日野先生から電話をいただき、初めて高架の上にあった反町の駅をおりました。「何て苛酷な場所にある学校なんだ!」。今はない○○坂の頂上にあった手すりに腰掛け、流れる汗をぬぐいました。私は捜真女学校に勤め、多くの先生方に色々なことを学びました。この学校に勤めて仕事を与えられる喜びや、人に認められる嬉しさを知りました。また生徒に多くのことを学びました。世代の違う方々と話すことで得られる大きな知見を得、多くの方々に、支えられ、救われ、助けていただき今日まで生きてきたのだと大げさでなく思うのです。

 私は人に弱いところを見せるのは大嫌いです。いつも元気でいる自分を他者に見せたいと思います。それでもどうしようもなくダメなとき、ひどく痛めつけられるときが人生には多くあります。捜真女学校で学んだことは、困ったとき、厳しい状況にあるとき、自分の横にいてくれる人がいること、話を聞いてくれる人がいること、またそうすることが自然な行為であるということです。人に対する優しさ、愛情が何より大切なことであり、それを与えること、受け取ることに人間としての喜びと本質があることを教わりました。

 同窓生の皆様はもちろん捜真女学校に誇りをお持ちだと思います。私はそこに小さな嫉妬を覚えます。もっと早く心が柔軟な時代に、自分の生き方の軸となるものを教わりたかったと。この学校の良さは言葉では表現しづらい。現代人の持つ損得勘定とは全く異なる次元にあるものです。それは人としてどうあるべきかという本質的な問題です。世の中では「感動する話」などといって数字を稼いでいることが多くあります。しかし日常生活の中で自然に他者への愛を実践できる人間を輩出しているこの学校の良さ。それを広めることが今の私の使命の一つだと思っております。人との距離を取らねばならない今。捜真生に脈々と受け継がれる「どのような状況でも最善の自己であること」「人との密な関係」が人生の喜びであることに、あらためて気づかされた人は多いのではないでしょうか。

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