幸せを壊す
インド北部にあるビハール州サウラース村で、女性のやる気とパワーに圧倒された私。
日本帰国後は「彼女達のパワーが発揮されるために、何をしたらよいか。」考えました。
村の女性からは「この状況を変えたい!」という気持ちを強く感じました。しかし日本に帰ると、「部外者が余計な事をして、村の幸せを壊してしまったら。」という不安が大きくなりました。
そんな時、村で見聞きした事を思い返すと、
農民達は、「アメリカやカナダから農薬を買っているが、土が固くなって困る。」
漁師達は、「カナダから稚魚を買っているが、在来種を食べて困る。」
と話していました。(どこのメーカーの物かは確認していません。セールスマンが「アメリカ産だ。カナダ産だ。」と言っているだけの可能性もあります。)
土壁の陰からこちらを覗く女性は、手に携帯電話を持っていました。彼女の夫は、都市部に出稼ぎに出ているそうです。
既に都市部や海外と関わりがあるこの村で、今後も彼らの生活を外の世界と切り離して考えることは不可能でしょう。
またそんな時、母校である捜真のことも頭に浮かびました。捜真はアメリカ人の作った学校です。私自身はそのことを意識したことはありませんでしたが、捜真と出会えたことには感謝しています。今、この学校を営むのは、日本に暮らす人々です。
小さなキッカケを作れたとしても、その先どうするかは、村の人々に委ねられている。
もし、自分があの村の女性だったら…。
「保守的な村で、自分で波風を起こす勇気はないだろう。でも、誰かがキッカケを作ってくれたら、その波に乗って新しいことに挑戦できるかもしれない。」
「外部者である私が行動するメリットは、自由に振る舞えること。このメリットを彼女達に利用してもらいたい。」
2度目の訪問
2ヶ月後の2011年1月。私は再び、サウラース村を訪れました。
すると、前回は遠巻きにこちらに視線を向けていた女性達が、笑顔で近づいて来ました。
「私、あなたのことを覚えてるわよ。」「私だって!この人のこと知ってるわ。」
前回とは明らかに、村の方々の顔が変わり、一気に距離が近くなったように感じました。私の「彼女達と何かしたい」という気持ちは一層強くなりました。
気になる女性の下着事情
インド滞在の楽しみの一つ。それは衣装がとても美しいことでした。特に女性は、サリーの巻き方やアクセサリーの付け方に工夫が見られ、そのセンスに私はいつも感心していました。
ところが、一緒に過ごしているうちに、その衣装の下に見え隠れする下着が気になり始めました。インドの衣装は体のラインにフィットし、襟元が開いたデザインが多いので、下着の形が見えたり、ストラップが見えることがよくありました。また、サイズが合わないのか、呼吸が苦しそうなほど下着が食い込んでいる人も多く見かけました。
「下着がおしゃれを台無しにしている。それにサイズの合わない下着は健康にも悪いのではないか。」
私はずっと気になっていた「下着はどこで買うの。」という質問をしました。実はこの村に来る前から、なぜかこの質問が頭にあったのですが、前回は奥ゆかしい女性達を前に切り出せずにいたのでした。
「下着はどこで買うの?」
「町の下着屋さんで。」女性が答えました。
すると、通訳をしていた、この村の若い女の子が耳元でこう言いました。
「下着を男の人から買うのよ。信じられない。そんなの無理だから、私は都市部に住む両親に買ってきてもらうの。」
??どういうこと??
「私を下着屋さんに連れて行って。」
私達は村から車で30分ほどの町に、下着を買いに出かけました。
そして連れて行かれたのがこちらのお店。
優しそうな『おじさん』が迎える、衣料品店でした。
店内には所狭しと商品が積まれ、店員さんに伝えないと商品を見る事すらできません。
一瞬たじろいだ私に、
通訳の子が「下着を買いたいんでしょ。このおじさんに言うのよ」と促しました。
私「下着が欲しいのですが」
店員さん「サイズは?」「どんなタイプの物がいいの?」
私「サイズは、わからないです」
店員さん(私の身体をチラリと見て)「うーん。このくらいのサイズかな?」
適当なサイズの物を出してくれました。
・・・・・。
男女の区別がはっきりしているこの地で、女性達は、この男性に下着のサイズや好みを伝えられるのでしょうか。「もっとレースが使われている物が良い」だの「可愛いのがいい」だの、言えるのでしょうか。
さらには、このお店は紳士物や子ども服も取り扱う為、男性客も買い物に来ます。そんな中で、女性の下着を広げて選ぶのは、私にとっても大変居心地の悪い体験でした。(箱の写真と中身が違っている事もあるので、箱を開けて広げてみないと、どんな物が入っているのかわからないのです!)
また、「お客様のご意見命」の日本メーカー勤務だった私には、「お客様とコミュニケーションが取れない中で、どうやって商品を企画するのか。」ということが衝撃でした。この状況は、ユーザーだけでなく、商品を仕入れる販売店や卸業者、下着メーカーにとっても非常に不便だと感じました。
村に帰って、あらためて女性達に下着の購入について尋ねると、
「自分で買うのは恥ずかしいので、家族に買ってきてもらう」
「男性から買いたくないので、出稼ぎの家族に頼んで送ってもらう」
「サイズが合わなくても、そのまま使っている」
「ブラジャーのサイズは難しくてよくわからない」
多くの女性達が、下着を買うことに恥ずかしさや不便を感じていました。
インドで下着をつくりたい
インドには仕立て屋文化があり、学校の制服を用意するにも、各々が布地を買って、近所の仕立て屋に頼むという習慣がありました。村の中にも服を作れる人は沢山いました。でも、下着を作っている人はまだいませんでした。
下着こそ、オーダーメイドでからだに合う物を。
インドの衣装のように、見るだけで楽しい下着を。
意欲溢れる女性達とつくりたい!
こうして、「インドで下着をつくりたい」となったわけです。
村の女の子が「図案は自分で考えた」という刺繍。こういった美しい模様をあしらった下着を作ることを当初イメージしていたのですが、耐久性などの問題から実現には至らず。違う方向性の物を作ることになりました。
つづきは、また次回。
江副 亮子(高53)
2025.2.25 公開